国際文化公園都市・彩都のまちづくり――はじまりから携わるということ
2025.02.06 Thu
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大阪府箕面市と茨木市にまたがる北部丘陵地に位置し、豊かな自然と便利な都市機能が両立する「彩都(さいと)」は、長い時間をかけて構想され、つくられてきた街です。
2004年のまちびらきから20年が経ち、現在では約18,000人以上が暮らし、約9,000人が働く街へと成長しています。
その計画の初期から関わり、街の成長を見守りながら、まちづくりの現場でさまざまな挑戦をしてきた松尾さんに、彩都のまちづくりに込められた思いを語ってもらいました。
INDEX
住宅事業本部 住宅事業企画部 松尾友佳子さん
彩都の場所選びと都市設計――なぜこの地が選ばれたのか
―彩都のプロジェクトがどのように始まったのか、経緯を教えてください。
松尾さん: はい。彩都の開発計画が動き出したのは、1986年に大阪府が発表した「国際文化公園都市」構想がはじまりです。自然と都市が調和する新しいモデルとなる街を目指して計画が立ち上がりました。このプロジェクトの核となるのは、「人々が文化や自然と共に暮らし、学び合い、成長できる街」を創ることでした。当社はその理念を大切にして、インフラ整備から都市計画、そして住民参加型の地域コミュニティづくりまで幅広く携わってきました。
2024年にまちびらき20周年を迎えた彩都
―彩都が位置する場所は、大阪の北部にある丘陵地帯ですね。なぜこの地域が選ばれたのでしょうか?
松尾さん: いくつか理由があります。まず、この地域は大阪市内へのアクセスが良好で、都市部と自然の中間に位置しています。また、北摂の山並みを後背に、里山としての魅力がありました。私たちは、この場所を都市機能と自然が共存する「未来の生活拠点」に適していると判断しました。そして、計画当初から都市設計には緑豊かな環境を守りながら効率的で快適な生活を支えるインフラを組み込むことを意識しました。
―具体的には、どのような都市設計が行われたのですか?
松尾さん: 大きな特徴の一つが「ゾーニング」です。彩都では住宅エリアを中心に、学術・文化エリア、商業エリア、そして緑地や公園をバランスよく配置しました。これにより、良好な住環境と暮らしの快適さを満たすことができるまちづくりを実現しています。
彩都西公園
阪急彩都ガーデンフロント
彩都の課題
まちづくりが始まった頃の彩都(2004年4月)
―計画通りに進まない部分や、課題も多かったのではないでしょうか?
松尾さん: そうですね。例えば、初期段階では、大規模開発であることから「街としての一体感をどう作るか」という課題がありました。また、新たに開発した住宅地として、住民をどう呼び込むかも大きな挑戦です。まちびらきに向けた具体的な計画段階である1990年代から2000年代初頭は、都心回帰の流れが顕著になった時代でもあり、彩都のような郊外における大きな開発に対しては難しい意見もありました。
その中で、当社が行き着いたのが、「自然環境を活かし、地域コミュニティの醸成を育む住民参加型のまちづくり」です。
住民参加型のまちづくり
―彩都では住民の声を活かしたまちづくりが特徴だと感じています。その取り組みについて詳しく教えてください。
松尾さん: まちびらき前年の2003年から、入居予定のマンション・戸建て住宅の購入者を対象に、彩都に隣接する休耕田を活用した米づくり・野菜づくりの農業体験活動をはじめました。これは田植え・稲刈り体験イベントとして今も続いており、住民同士のコミュニティを形成するだけでなく、昔からこの地域に住む方々が新しい住民に農業の楽しさや地域の歴史を伝えながら、一緒に作業をすることで自然と交流が生まれる場になっています。新旧住民の間に生まれたつながりは、その後も継続して地域活動の中で活かされています。
また、住民主体の活動を支えるための組織として「彩都スタイルクラブ」を立ち上げました。まだSNSもなかった時代に、情報発信や交流を目的とした住民専用のWEBサイト、コンシェルジュが常駐するフロント、当時としては画期的だったカーシェアリング、さまざまなイベント開催などのサービスを展開するだけでなく、彩都内にあるマンションの共用施設を相互利用できるしくみを作りました。これにより、さまざまなサークル活動が生まれ、活発な住民活動が進みました。
さらに、コミュニティ全体の基盤を整えるために「まちのための法人」を設立しました。この法人が主体となり、街全体の清掃活動や地域課題の解決に取り組むことで、住民にとっての安心感と信頼感を生み出しました。こうした取り組みを通じて、彩都は「住むだけの街」ではなく、住民自身が主体的に関わる「暮らしの拠点」としての存在感を高めています。
阪急阪神不動産の視点――「不動産会社」の枠を超えて
農業体験イベントをサポートしている彩都住民の皆さんと一緒に(写真右端:松尾さん)
―不動産会社として、まちづくりに積極的に関与している点が非常に特徴的だと思います。このプロジェクトで、阪急阪神不動産が果たした役割はどのようなものだったのでしょうか?
松尾さん: 「エリアマネジメント」という言葉は今でこそ、まちづくりとは切っても切り離せないものですが、まちびらき当時はまだあまり一般的なものではありませんでした。我々が当初から行っていたのはまさにこのエリアマネジメントです。暮らしそのものをプロデュースする我々デベロッパーが、単に快適で綺麗な街を開発するだけではなく、良好なコミュニティ形成を支援することで、住民のみなさんが街に愛着を持ち、結果的に街の活性化や魅力の向上に繋がっていると感じています。
まちびらきから20年が経つ中で、コミュニティ活動の担い手は我々デベロッパーから住民のみなさんに引き継がれ、2017年には住民自らが「まちづくり憲章」を宣言するまでに成長しています。こうして一歩ずつ積み上げた取り組みが高く評価され、2018年に彩都は「まちづくり憲章のあるニュータウン[彩都]」としてグッドデザイン賞を受賞しました。審査員の方々からは、「開発者と自治会がうまく役割を分担しながら柔軟なまちづくりを行っている点」や、「地域コミュニティの立ち上げを支援し、主体的に運営できる人や組織を育てている点」が特に評価されました。
この賞は、私たちのまちづくりの取り組みが一定の成果を上げている証であり、今後も長期的な視点で持続可能な街を育てていくための大きな励みとなりました。
彩都の未来へ――持続可能な街づくりを目指して
2025年秋「彩都西」駅前建設予定の複合施設
―最後に、彩都の今後の展望について教えていただけますか?
松尾さん: 彩都は、完成だけを目指すのではなく「進化」を続ける街です。彩都スタイルクラブの住民専用WEBサイトの機能拡充や、結果的に採用には至らなかったものの、管理組合の協力のもと顔認証によるエントランスの解錠の実証実験を行うなど、デジタル技術も活用して、住民同士の交流をさらに深める「スマートシティ」の実現を目指しています。また、2025年秋には大阪モノレール「彩都西」駅前に街の新たなコミュニティ拠点となることを目指した複合施設を建設します。この施設は、マンション・戸建ての販売拠点としての機能だけでなく、住民協働型のコミュニティカフェや多目的スペース、店舗を設けるほか、適切な森林の保全や脱炭素社会の実現に向けた取り組みとして、大阪府産木材を豊富に使用した木造で建設します。環境に配慮しているだけでなく、街の新たな顔になることを期待しています。今後は、自然エネルギーを活用した取り組みや、高齢化社会に対応した新しい住まい方の提案なども視野に入れています。