大阪梅田をイノベーション創出拠点に
FUTRWORKSが目指す未来
2025.07.23 Wed

FUTRWORKS(フューチャーワークス)は、阪急阪神不動産(阪急電鉄の業務代行者)が手掛ける新たな産業創出の拠点として、2024年1月、大阪梅田・阪急グランドビル26階に誕生しました。ここでは、国内外のスタートアップやイノベーターたちが集い、交流する中で、新たなビジネスの芽が育まれています。
この施設は、国内外のスタートアップを積極的に招き入れるだけでなく、日本企業の海外展開支援を行い、また、デジタルノマドをはじめとした海外人材との交流拠点としても機能することで、グローバルな視点で新産業を生み出すエコシステムの形成を目指しています。
今回、施設の運営に携わっている当社の従業員3名に、その全貌と目指す未来について語ってもらいました。
INDEX
写真左より、田渕さん、吉田さん、津田さん
-津田知華子さん 都市マネジメント事業部
-吉田碧生さん 都市マネジメント事業部
-田渕貴稔さん 技術統括部 ※当時の所属は都市マネジメント事業部
大阪梅田から世界へ FUTRWORKSが目指しているもの
-津田さん
FUTRWORKSは、国内外のスタートアップやデジタルノマド、リモートワーカーが集うグローバルなコワーキングスペースです。
前身であるGVH#5※は大阪の起業文化の普及と支援を目的に2014年に設立され、スタートアップの成長と支援体制の強化に貢献してきました。2019年からは、海外スタートアップの日本進出を支援するアクセラレーションプログラム※に参画し、オープンイノベーションの促進にも取り組んできました。
2022年には、阪急阪神HDグループが「梅田ビジョン」を策定し、大阪梅田エリアの国際競争力向上を掲げる中、新産業創出の場の重要性がさらに高まりました。
当社では、このビジョンを推進すべく、イノベーションの担い手であるスタートアップの成長支援や、大学・研究機関・企業による協業を促進することで、「新産業創出」を実現する都市機能の構築に取り組んでいます。
この方針を踏まえ、GVH#5の知見を活かし、2024年1月に移転・リブランディングし、FUTRWORKSとして再スタートさせました。
※GVH#5(ジーブイエイチファイブ)
大阪・関西を拠点とし、新たなビジネスの立ち上げを目指すスタートアップを支援する会員制のワークプレイスとして2023年12月末まで運営。
※アクセラレーションプログラム
ベンチャー企業や中小企業を対象に、アクセラレーターと呼ばれる支援者との定期的な面談(メンタリング)を通して、事業アイデアや新規ビジネスの検証・精査(ブラッシュアップ)を二人三脚で行っていく伴走型の支援(ハンズオン支援)を指す。
※梅田ビジョン6つの基本方針におけるFUTRWORKSが担う役割:基本方針①〜③
さらに、2024年から支援対象を拡大し、国内スタートアップの成長支援や海外展開、海外スタートアップの日本誘致に加え、世界で3,500万人いると言われている「デジタルノマド」※の受け入れを強化し、グローバルなスタートアップエコシステムの構築を進めています。
デジタルノマドの多くは、エンジニアやマーケティングなどの専門性を持ち、スタートアップとの親和性が高い点が特徴です。また、一般的な観光客とは異なり、数ヶ月単位の中長期滞在が多いため、地域経済への貢献が期待できることから、インバウンド戦略の観点でも重要なターゲットとなっています。
FUTRWORKSでは、ハード面の機能はもちろん、ソフト面でも、ヨガやキックボクシングなどのエクササイズや文化体験イベント等を通じた利用者同士の交流促進、グローバルなコミュニティ形成に加えて、当社グループならではのネットワークを活用したビジネス支援、コラボレーション機会の創出なども積極的に行っています。
※デジタルノマド
国を転々としながらITを活用してリモートで働く人のことを指す。
人と場所の出会いが生む可能性
-津田さん
FUTRWORKSは、コワーキングスペースの枠を超え、グローバルと大阪らしさを掛け合わせながら、新しい価値を創出しようとしています。スタートアップには、ここに入居したからこそ得られる、事業の成長やグローバル展開を身近に感じていただきたいですし、デジタルノマドのような海外からの短期利用者には、ここでの出会いや体験を通し、大阪の本当の魅力を知ってもらい、長期滞在やビジネス展開まで促したいと思っています。FUTRWORKSとしての再スタートからまだ1年程度の短い期間ですが、デジタルノマドが集まれる場所が新たな出会いを生み、そこからビジネスの発展にまでつながり始めています。
2025年3月に開催したデジタルノマド向けのプロモーションイベント「FUTRFEST(フューチャーフェスト)」では、そのビジョンがまさに具現化されました。
世界中から招待した約30名のデジタルノマドやリモートワーカーには、FUTRWORKSで実際に仕事をしていただく中で、参加者同士のコミュニティ醸成をサポートし、大阪梅田のまちの魅力を体感いただくなどの機会を創出しました。
嬉しいことに、参加者の中には、長期滞在に切り替える方や、何度も大阪を来訪するリピーターとなる方が多くみられるようになりました。
このイベントを通して、施設の理念や価値観に共感し「ファン」になっていただけた結果だと考えています。
加えて、新たなビジネスパートナーを見つけた方も多く、FUTRWORKSが単なるコワーキングスペース以上の価値を提供していることが証明されたようでした。
きっと参加者の記憶には、FUTRWORKSという施設を通したかけがえのない出会いや体験が心に刻まれていることと思います。
総合デベロッパーとしての先進的な取り組み
-吉田さん
デジタルノマドやスタートアップの誘致を筆頭にFUTRWORKSで進めている活動の中でも、特に先進的で難度の高い挑戦があります。
阪急阪神HDグループが保有する資産やリソースを活かしたスタートアップの実証実験支援です。
-田渕さん
一つは、京都大学発のディープテック・スタートアップである、メトロウェザー社※の「ドップラー・ライダー※」を大阪梅田ツインタワーズ・サウスの屋上に設置し、今後のドローン輸送や空飛ぶクルマの安全運航を目指した風況観測の実証実験をサポートした事例です。
大阪梅田ツインタワーズ・サウス屋上に設置されたドップラー・ライダー
※メトロウェザー株式会社(https://www.metroweather.jp/)
同社は「風を見える化し、空の安全を守る」をビジョンに掲げ、空の風速や風向を高精度に計測する「ドップラー・ライダー」の製造販売、レンタル事業を手掛けている。
※ドップラー・ライダー
数十km先の風向や風速を高精度に測定する装置。レーザー光を大気中のエアロゾル(微細な塵や微粒子)に照射し、エアロゾルによってわずかに変化する光の周波数を解析(ドップラー効果)することで高精度な風速と風向を計測する。この技術は、特に無人航空機や空飛ぶクルマの運航において、安全な飛行を支えるための重要な情報となる。
この事例は「大阪梅田を実証実験のしやすい街に」というミッションの一環として、都市インフラの新たな可能性を切り拓くものになったと実感しています。
同社は2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)への協賛を行い、風速・風向の観測・予測情報提供の運営事業者にも選定されております。これは、将来的な社会実装に向けた重要なステップだと捉えています。
2025年7月現在も大阪梅田ツインタワーズ・サウスの屋上には機器が設置され、継続的にデータ収集が行われており、都市部での新たなモビリティやインフラ整備への応用が期待されています。
今後の都市空間における次世代モビリティの実現を見据えた基盤技術の整備は、規制の進展とともに新たな展開を迎えることが予想されていますし、国内ではすでに同様のプロジェクトが進行しています。
大阪梅田エリアにおいても、近い将来、この技術の活用を真剣に検討するフェーズが訪れると考えています
-吉田さん
もう一つの事例として、介助予約システムを提供するイギリス発のスタートアップ、Transreport Limited と阪急電鉄との実証実験があげられます。この試みでは、阪急電鉄の都市交通事業本部と連携し、部門を超えた協力を実現しています。1年以上にわたる活動の成果として、阪急阪神イノベーションパートナーズ投資事業有限責任組合からの出資が決定し、これを契機に、Transreport Limitedは日本法人を設立し、現在はFUTRWORKSを拠点として活動を行っています。
また、実証実験の結果として、阪急電鉄では、Transreport Limitedが提供する介助予約システム「PAパッセンジャー」を導入し、2025年4月より、時間や場所の制約なくWEBで介助を予約できるサービスを開始しました。
PAパッセンジャーは、障がい者や高齢者をはじめ、サポートを必要とするお客さまが、公共交通をより安心・快適に利用できるよう設計されたWebアプリケーションです。画面の見やすさや情報認識のしやすさを向上させるため、文字色や情報配置など、さまざまなウェブアクセシビリティの工夫が施されています。
お客さまが予約した情報は、 駅係員が使用するアプリにタイムリーかつ自動的に連携されるため、この情報をもとに、駅係員の派遣やサポートの準備等をより円滑に行うことが可能になりました。サポートを受けるお客さまにとっても、よりスムーズかつ安心して電車をご利用いただけるようになっています。
当社グループでは、沿線を中心とする事業エリアにおいて、先端技術を活用した移動時の利便性向上や円滑化等の取組を推し進めることにより、あらゆる方々が持続的かつ快適に暮らすことができる街づくりを目指しています。今後は、Transreport Limitedとの協働により、電車をご利用されるお客さまに、さらに利便性の高いサービスを目指すとともに、当社グループのさまざまな施設やサービスにも展開し、魅力ある街づくりをさらに加速させていく予定です。
-田渕さん
これらのプロジェクトを通じて、関係者間の調整やスタートアップとの共創の難しさを感じると同時に、新しい技術を街に実装していくおもしろさも実感しました。
今後もグループの総合力を活かして持続的に成功事例を生み出せるよう、FUTRWORKSが新産業創出のゲートウェイとなることを目指すとともに、当社グループおよび大阪梅田エリアの競争力向上にも貢献していきたいと考えています。
前例のない施設だからこその挑戦
-田渕さん
FUTRWORKSでのさまざまな取り組みを通じて、前例のない施設を形にする難しさも日々感じています。
FUTRWORKSは、グローバルなデジタルノマドも利用するため、多様なニーズに応えられる環境でなければなりません。そのため、従来のオフィスやコワーキングスペース等の枠にとらわれない発想が求められ、設計の段階から新たな視点でのアプローチが必要でした。
施設の構築段階を振り返ると、これまでにない取り組みを前提とした設計だったからこそ、各部署と連携しながら調整を重ね、関係者全員が納得できるロジックを組み立てなければなりませんでした。このように、会社として事業を推進していけるよう、さまざまな視点を統合しながら合意を取り付けていく過程では、多くの試行錯誤がありました。
開業後の現在も、既存の会員様や海外から来られた利用者様のフィードバックを基に、目の前の課題を一つひとつ改善し続けています。
前例がないものを作り上げること、そして運営しながらより良い形に進化させていくこと、そのどちらにも挑戦し続ける必要があると感じています。
-吉田さん
スタートアップ支援者間の競争が激化している中、グローバルなスケールを志向した本質的な支援メニューを提供しなければ、選ばれなくなるのは時間の問題です。施設運営においては、業界動向や個別事情に精通したプロフェッショナルとして、デジタルノマドを含めた多くのステークホルダーの期待を適切にコントロールしながら進める必要があります。
FUTRWORKSのように、グローバルなスタートアップエコシステムを求めるデジタルノマドの誘致や取り込みを進めている例は国内では類を見ないと思われます。
単に英語フレンドリーなコワーキングやシェアオフィスではなく、国内外のスタートアップ支援とデジタルノマドを含めたグローバルなコミュニティ醸成に取り組んでいること自体が難易度の高い挑戦ですし、特に、施設のソフト面での支援施策に関しては正解がなく、終わりのない挑戦だと感じています。
価値を創造する場所づくりへの大きなやりがい
-津田さん
FUTRWORKSでは、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まり、共に学び、成長し、新たな価値を創出する場になることを目指しています。そのような場づくりに貢献できること、エネルギー溢れる人々と未来の話ができることは、私にとって大きなやりがいです。
理想の未来を実現するためには、戦略や実行力は欠かせませんが、人々が集う場を創るには、どれだけテクノロジーが発達しても、最後は人が人を呼ぶことでしかないと感じています。
これからも、大阪・関西を世界に開かれたイノベーションの拠点にすることを目指して、あらゆる挑戦を続けていきます。